若い世代はなぜコスパを重視する?その背景にある社会の変化とは

さえずりブログ

最近の若い人はコストパフォーマンス(コスパ)とタイムパフォーマンス(タイパ)を重視する。

という話をよく耳にする。

しかし、それは本当に若い人特有の考え方なのだろうかと私は思う。

確かに、圧倒的な売り手市場やスマートフォン、SNSの普及により、そういった機会に長く触れてきた若い方ほどコスパ・タイパを重視する傾向にあることは否定しない。

ただ、コスパ・タイパ重視の考え方は若い人専用のものではなく、年齢に関わらず多くの社会人に浸透し始めている概念だと私は考えている。特に、社会におけるキャリア形成に関しては、若い人に限らずコスパ・タイパを重視する方が増えているような印象を受ける。

今回は、昨今の若い人がキャリア形成においてコストパフォーマンス(コスパ)を重視する要因について、私なりの考えをさえずっていこうと思う。

コストパフォーマンス(コスパ)とタイムパフォーマンス(タイパ)

まず、コストパフォーマンス(コスパ)とタイムパフォーマンス(タイパ)の意味や使われ方について説明をする。

コストパフォーマンス(コスパ)とは

コストパフォーマンス(コスパ)とは、支払った対価に対してどれだけの効果や満足度が得られたかを示す指標である。

具体的には、商品やサービスを選ぶ際に、価格だけでなく、品質や機能、耐久性などを総合的に判断し、最も費用対効果の高いものを選ぶことを指す。例えば、高価な商品でも、長期的に使える高品質なものであれば、結果的にコスパが良いと言えるだろう。

また、コスパは単に「安い」という意味ではなく、価値に見合った価格であるかどうかを判断するための指標としても使われる。例えば、安価な商品でも、すぐに壊れてしまったり、期待した機能がなかったりすれば、コスパが悪いと言える。

まとめると、同じ対価を支払うなら、より良い結果が得られる方が「コスパが良い」と言える。

タイムパフォーマンス(タイパ)とは

タイムパフォーマンス(タイパ)とは、費やした時間に対してどれだけの効果や満足度が得られたかを示す指標である。

具体的には、限られた時間の中で、効率的に目的を達成したり、より多くのことを経験したりすることを指す。例えば、通勤時間を短縮するために、職場の近くに引っ越したり、家事代行サービスを利用して、自由な時間を増やしたりすることは、タイパの良い選択と言えるだろう。

また、タイパは単に「時短」という意味ではなく、時間の使い方を最適化し、充実した時間を過ごすことを目的としている。例えば、動画を倍速で視聴したり、音声学習を活用したりすることは、効率的に情報収集を行うためのタイパの良い方法と言える。

まとめると、同じ時間を使うなら、より良い結果が得られる方が「タイパが良い」と言える。

キャリア形成の手段

社会人のキャリア形成の手段としては、大きく以下二つに分けられる。

キャリア形成の手段
  • 組織内昇進型キャリア
    • 1社に長く在籍し、一つの会社で専門性を磨きながら昇給/昇格を目指す中・長期的なキャリア形成プラン
  • 市場価値向上型キャリア
    • 短い期間で転職を繰り返し、在籍した会社で実績や経験を積み上げながら市場価値を高め、転職を通じてキャリアアップを目指す短期的なキャリア形成プラン

日本社会において、過去は➊組織内昇進型キャリアを選ぶ方が圧倒的に多かったと言える。

なぜなら日本の過去の雇用慣行は、終身雇用と年功序列を基盤としている企業が多く、➊組織内昇進型キャリアを選ぶことで安定したキャリア形成が行えたからである。

しかし、現在の日本社会、特にIT業界においては➋市場価値向上型キャリアを選ぶ方が非常に多い。

終身雇用と年功序列を基盤とした雇用慣行は現代の日本社会では薄れているとはいえ、➊組織内昇進型キャリアの形成が不利になったわけではない。
1社で専門性やスキルを磨き、社内での信用、経験、実績を積み上げ、昇給昇格を狙うキャリアアップは、現代日本社会でも非常に有効なキャリアアップ手段である。

であるにもかかわらず、現代日本社会では➋市場価値向上型キャリアを選ぶ方が増加していっているのはなぜだろうか?

私は、転職にかかる「コスト」が大幅に低下したことが起因していると考えている。

転職コスト低下に伴うコスパアップ

なぜ過去の日本社会では➊組織内昇進型キャリアが多かったのか、私は、過去の日本社会では転職にかけるコストが高すぎたことで、転職に踏み切る社会人が少なく、結果として➊組織内昇進型キャリアを選ぶ方が多かったのではないか、と考えている。

これは、過去の日本社会は転職することに対してのコスパが悪かった、と言い換えられるだろう。

ではなぜ現代日本社会では➋市場価値向上型キャリアを選ぶ方が増えているのか?

なぜなら、現代社会では転職にかかるコストが過去の日本社会に比べて大幅に低下しているからだ

現代社会において、転職コストの低下を加速させた要因についてはいくつか考えられる。

インターネット・SNSの普及による他社情報収集コストの低下

インターネットが普及していない時代の日本では、他社の情報を手に入れるのは容易ではなかった。

新聞や四季報、テレビニュースやコマーシャルなど、企業情報を手に入れる方法は存在したが、それはあくまで外部に向けて発信された情報であり、会社内部の情報を知る手段にはなり得なかった。

もし他社の社内制度や雰囲気などの情報を手に入れようと思ったら、その会社に所属する友人や家族などから人づてに情報を仕入れ、限られた情報の中でその企業の内情を判断するしかなかったであろう。

このような情報が少ない中で転職をする行為は、リスクが伴い、転職した結果、以前よりも職場環境や待遇が悪化する可能性も考慮する必要があった。いわゆる、コスパの悪い環境だったと言えるだろう。

一方で、現在はインターネットやSNSを介して様々な企業の情報を手に入れることが可能である。転職サイトなどから、過去にその企業に在籍していた人の口コミ情報を得ることもできる。

その会社に転職せずとも、事前に企業情報を調査し、自分の希望に合った会社を探すことができるようになった現代社会は、転職に対するリスクを大幅に下げ、自らの希望に合った会社を主体的に探すことができる非常にコスパが良い環境といえるだろう。

転職市場の拡大と普及に伴う転職コストの低下

転職市場の拡大と普及も、転職コストを大きく低下させる要因になったと考えられる。

過去の日本では、終身雇用制度が根強く、転職そのものに対してネガティブなイメージも存在したため、転職自体が一般的ではなかった。

さらに、転職しようとしても、求人情報探しは人づて以外では新聞広告や求人雑誌の掲載情報から探す必要があり、選択肢・情報量が非常に少なく、転職自体のコストとリスクが非常に高かったと言える。

一方で現在は、マイナビやリクルートなどの大手転職エージェントがインターネットやSNSを介して積極的に企業情報を発信し、転職活動を支援している。

過去は専門職や管理職に限定されていた転職市場も、現在では一般職や若手社会人向けにも開放されており、転職市場の活性化に伴い、転職に対するネガティブなイメージも払拭されつつある。

その結果、転職すること自体のコストが下がり、結果として転職がコスパの良い選択肢になってきたと言える。

転職を重視する人の考え方

転職のコスパが良くなったからと言って、すべての社会人が➋市場価値向上型キャリアを選ぶわけではない。

現代社会にも➊組織内昇進型キャリア志向の方は多数おり、1社に長く在籍して専門性を磨き昇格を狙うのは、依然として有効なキャリアアップの手段の一つである

ではどのような人がコスパの良い転職という手段を選ぶのだろうか?

私は仕事を通じて自己成長を追求する「成長タイプ」の人と、仕事を生活のための手段と割り切っている「労働タイプ」の人がコスパの良い転職を選ぶと考えている。

社会における3つの仕事観(タイプ)については以下の記事で詳しく説明しているので参考にしてほしい。

成長タイプがコスパの良い転職を求める理由

成長タイプの人は、仕事を通じてキャリアアップすることに対して強い意欲を持つ。しかし、その動機は会社への貢献よりも自己成長に重点が置かれるため、成長を実感できない仕事には消極的になりがちである。

そのため、成長タイプの人は、現在の所属企業内でいかに早く経験と実績を積み、成果を出して自身の市場価値を高めるか、という点を重視する傾向にある。

もし、現在の所属企業で自身が成長を実感できず、実績も成果も出すことができない環境であれば、自身の目標を達成できないため、転職を通じて自身が成長できる環境を追い求めることになるだろう。

そのような時、現在の所属企業内で自己実現のための環境を探すコストよりも、転職を通じて企業そのものを変えるコストの方が低いと考えれば、成長タイプの人は早い段階で自社に見切りをつけて他社への転職を検討するだろう。

転職そのもののコストが下がったことで、自社で自己実現の環境を探すよりも転職の方がコスパが良いと判断されるようになってきたことが➋市場価値向上型キャリアが増えてきた理由といえる。

労働タイプがコスパの良い転職を求める理由

労働タイプの人は、基本的にはプライベートを重視しており、仕事は生活を充実させるための必要経費と考えている。

そのため、仕事においては指示された業務は着実にこなす一方で、それ以上の仕事は極力避け、能力を超える労働には消極的であることが多い。

このタイプの人は、労働が収入に見合わないと感じたときに、転職と自社継続を天秤にかけ始める

労働タイプの人は通常、昇給や昇格への意欲が低く、最小限の労働で十分な収入を得てプライベートを充実させることを重視する傾向があるため、残業時間の増加や業務難易度の増加を、他のタイプ以上に負荷(コスト)と感じてしまう。

その状態が慢性化すると、自社に居続けること自体が負担が大きいと判断してしまい、自社を合理的ではない環境だと考えるようになる。

そのような時、自分の置かれている環境を変えられる転職という手段が低コストで実現できるのであれば、負担の大きい自社に早々に見切りをつけ、わずかなコストを支払って転職という選択肢を選ぶだろう。

このパターンは➋市場価値向上型キャリアが増えてきた話とは意味合いが異なるが、転職を重視する人が増えた理由には起因していると考えられる。

転職コストの低下がコスパ重視の社会を作っている

バードブレインのさえずり
バードブレインのさえずり

コスパ重視の考え方は若い人特有の考え方ではない。転職コストの低下に伴い社会全体の環境が変化し、社会人が新しい環境に順応した結果、コスパ重視の価値観が形成されたのだと推測する。

これまでの考察から、コスパ重視の社会は若い人特有のものではなく、社会全体の変化がもたらした結果であり、その背景には転職市場の活性化や転職コストの低下があると考えられる。

社会の環境変化は、当然ながら若い世代だけでなく、経験豊富な社会人にも影響を及ぼす。そのため、キャリアの長い社会人も、現代の転職環境の変化の恩恵を受けているはずである。

それでも若い世代はコスパやタイパを重視すると言われるのは、彼らが過去の転職にかかる負担が大きかった時代の社会を経験しておらず、社会人になるための就職活動の段階から、現在の転職環境を実感しているからだと考えられる。

つまり、若い世代は転職環境の変化にいち早く順応しており、逆に過去の社会を知る経験豊富な社会人は、新しい環境への適応が遅れているということである。

今後もIT技術やAIの普及を通じて社会環境は変化し続けるだろう。そのような変化にいち早く順応した社会人ほど、効率的に自身の希望に合ったキャリアを形成できると私は考えている。

まとめ

以上が、私が考える若い世代がコストパフォーマンスを重視する理由の一端である。

もちろん、コストパフォーマンス重視の考え方は転職に限らず、様々な場面で見られる。今回の記事は、あくまでその一側面を考察したものである。

しかしながら、昨今の若い世代がコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを重視する背景には、転職環境の変化が大きく影響していることは間違いないだろう。

コスパを重視したキャリア形成は、現代社会において合理的な選択肢の一つとなった。

皆さんも、転職環境の変化によって生まれた新たな選択肢を吟味し、ご自身のキャリアプランを最適化していただきたい。

Birdbrain

データ活用系IT企業で複数の技術部門を統括する事業部長。30代で200人の部下のマネジメントを経験。幅広い業務経験を活かし多くの社会人の悩みを解決したいと考え、ブログを開設。ブログでは私の経験と知識からくる自論をさえずっていく。

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